自社が活動する(および活動予定の)事業範囲のことをドメインと言います。
ドメインは、①漠然とでも良いので範囲を設定する必要があり、②ある程度の広がりを持ち、③利害関係者間で共有される必要があるそうです。
では、なぜ範囲を設定しなければならないのでしょうか?
その理由はいくつかありますが、最も重要な理由として、自社の活動範囲を定めることによって有効な戦略を立案しやすくなる、という事があげられます。戦略立案の際に「あれが出来る、これもやらないといけない…」など、色々と考えていると際限なくアイデアが浮かび、いつまで経っても決められない事ってありますよね?それを避けるために、漠然としてても構わない(むしろ「その方が良い」という論者もいます)ので範囲を決めるんです。
範囲の設定方法としては、製品の物理面と機能面を基準にすべきという考え方や、市場と技術の奥行きを基準にすべきという考えなど様々ありますが、ここでは代表的な設定方法を紹介したいと思います。
まずは、エイベルのCFT分析【事業の定義―戦略計画策定の出発点 (マーケティング名著翻訳シリーズ)】です。CFT分析とは、Customer、Function、Technology、の頭文字をとったもので、その内容は、どの様な顧客に対して(Customer)どの様な機能=製品を(Function)どの様に提供するか(Technology)を定義するというものです。この他に、大前の3C分析【企業参謀 (講談社文庫)
】があります。3Cとは、Customer、Company、Competitor、の頭文字を取ったもので、その内容は、市場・競合・自社能力の分析からKSF(キーサクセスファクター)を見つけ出し、それを達成できるような事業範囲を定義するというものです。
上記の方法でドメインを設定するのですが、その際に注意しなければならないのは、その範囲を適度に保つことです。その理由として次の3つがあります。(1)ドメインの範囲が狭く限定的だと機会損失が発生する。(2)その逆にドメインを広く取っていれば、事業拡大により機会獲得を期待できる。(3)かと言って、ドメインを漫然と広く取りすぎていると、事業の焦点がボヤケテしまい無駄な資源配分がなされ非効率になる=「ドメインの希釈化」が起きる。
以上の理由から、ドメインの範囲は、狭すぎず広すぎず適切に保つ必要があるのです。また、ドメイン範囲を適度に持つだけでは成長は実現されにくく、経営理念等に沿った一定の指針を設定し、それに沿うようなかたちでドメイン範囲を設定する必要があります。有名な例として、NECのC&C【構想と決断―NECとともに】や、ドリルの径の話【T.レビット マーケティング論
】、アメリカ鉄道業の発展の話【ドラッカー名著集2 現代の経営[上]
】などがあるので参考にしてください。みなさん御存じでしょうが…。
また、もう1つ注意しなければならない点として、ドメインが利害関係者間で共有される(つまり、ドメインコンセンサスが形成される)必要があります。ドメインコンセンサスの重要性を最初に指摘したのはトンプソン【Organizations in Action: Social Science Bases of Administrative Theory (Classics in Organization and Management Series)】ですが、彼によればドメインコンセンサスを形成するメリットとして、(1)従業員が活動する際の指針となる、(2)顧客など外部の利害関係者に自社の活動内容を伝えやすくなる、というメリットがあるそうです。またデメリットとして、一度植えつけられた認識(つまり形成されたドメインコンセンサス)を変更することが困難であるので、ドメインを再定義する際には困難がつきまとうという事が挙げられます。
ドメインの再定義には多大な困難が付きまといますので、あらかじめ最初の設定時に、自社のビジョンと強みをよく考慮して設定しましょう。