1.経験曲線効果とは
経験曲線効果とは、1970年代にボストンコンサルティンググループが開発した戦略コンセプトです。もしかしたら生産管理論の一つだと混同される方がいるかもしれませんが、重視するポイントが全社的な方向性の決定という点で間違いなく戦略論に属します。その内容を簡単に言うと、生産の増加に伴いコストが減少するというものです。
2.経験曲線効果の歴史
経験曲線効果はBCGが提唱するより以前に、一般的に確証がないものの、その効果自体の存在は知られていました。その効果を科学的に立証しようとしたのがウィンフレッド・ヒルシュマンで、彼は1925年のアメリカ航空機メーカー等における生産効率を測定し、その結果をハーバードビジネスレビューに「学習曲線から得られる利益」と題した論文で寄稿。その内容は「縦軸に労働投入量(人件費)、横軸に累積生産量(生産単位数)をとってプロットすると約20%の下降勾配(この勾配線を学習曲線という)を描く。よって労働投入量は生産量の増加に伴って20%という予測可能な数値で低下させられる。下降勾配を描く原因として組織的な学習がある」というものでした。そして、この論文に目を付けたのがBCGでした。
3.経営戦略の核心
BCGはエルシュマンの論文をもとに各産業・数千の製品において学習効果があるのかどうかを検証し、その存在が認められると「経営戦略の核心」と題する、今では経験曲線効果と言われている次のコンセプトを提唱しました。
① 縦軸の項目を労働投入量から「CFベースでの人件費・資本コスト・販間費などの全コスト」に変え、横軸の項目を生産単位数から「累積経験」に変えた「経験曲線効果」というプロット図を開発。この図から、経験が2倍になるごとにコストと価格は15~25%という予測可能なペースで低下すると提唱。
② 経験効果の増大がコストを予測可能な範囲で低減させる→コスト低下のためには経験効果を増大させる→経験効果の増大には生産の拡大が必要→売りさばくためにマーケットシェアを増やす必要がある→マーケットシェアの拡大が経験効果を増やしコストが減り、低価格化が可能になってシェアを拡大させる。
これが経験曲線効果の戦略です。規模の経済にもとづく戦略論ですね。ポーターのコストリーダーシップ戦略と同じです。このコンセプトがウケた理由として、将来のコストが予測可能になったという事があげられます。これにより将来の経営計画と予算管理が容易になったからです。ちなみに後に多くの研究者が経験効果の発生要因を研究し、その要因として次をあげています。
・習熟効果
・職務の専門家と作業方法の改善
・新しい製造方法の開発と改善
・生産設備の能率向上
・資源ミックスの改善
・製品標準化
・製品の設計改善
4.経験曲線効果とBCGマトリクスの関係
さて、カンの良い方はお気付きでしょうが、ここで新たな戦略論が必要になり、登場します。そう、BCGマトリクスです。経験効果を増大させるためにはマーケットシェアの拡大が必要なのですが、では本当にシェアを拡大すればいいのでしょうか?「市場も製品もそれぞれ特徴があるのに十把一絡げにしてるのではないか?」当時も同じような疑問を感じた経営者が多くいたようで「生産拡大に資源を割いているので販促に割く資源が無い」「効率よく市場シェアを増やすにはどうすればいいのか」「そもそも、どんな状態の市場でも経験効果に沿った戦略をとって大丈夫なのか?」という疑問が生じたようです。それに答えたのがBCGマトリクスでした。BCGマトリクスについては皆さんよく御存じでしょうから詳細は省きますが、市場の特性(成長度が高いのか低いのか)とマーケットシェア(相対的市場シェア)を考慮して、マーケットシェアの拡大=経験効果の追求を続けるべきか否かの判断ができるようになったのです。すなわち、
・問題児
市場成長率が高いので将来性があるが、シェアが低いので、競合よりも多く生産し経験効果をつむべし。
・花形
シェアが高いので経験効果も高いが、市場成長率が高いので競合の参入が予想できる。よって、競合にシェアを奪われないうちに生産を増やし経験効果を増やす。
・金のなる木
シェアが高いので競合企業が撤退するまで経験効果と生産増加を追及する。それによりシェア1位を獲得・維持する。
・負け犬
市場成長の見込みがなくシェアも低いので生産増も経験効果も追求する余地がない。よって撤退する。
このように経験曲線効果とBCGマトリクスは関係していたのです。BCGマトリクス単体を勉強していると単純に、市場/シェアに基づく行動の決定方法、資源配分方法のツール
と思うかもしれませんが、根底には経験曲線効果の追求が可能か否かを判断するツールという思想があったのです。